建設現場でスマートフォンを取り出し、画面を操作するのは、思ったより簡単ではありません。両手は工具や資材でいっぱいであり、安全手袋をはめた指ではタッチ操作がうまく認識されません。地下やトンネル、コンクリート構造物の内部では、通信さえも不安定になります。
インターネットに接続されたAIがどれほど進歩しても、肝心の記録が最も必要な現場で使用できなければ、実質的な助けにはなり得ません。
(株)デジタルプレッソは、こうした現場の限界を解決するための国家研究開発課題に選定され、研究を進めています。
中小ベンチャー企業部が支援する2026年度創業成長技術開発事業(ディディムドル)の戦略技術R&Dを通じて、インターネットが途絶えた環境でもスマートフォン内で動作する音声ベースの現場記録技術を開発します。
この記事では、この技術がなぜ必要なのか、既存の生成AIと何が異なるのか、実際の現場ではどのように活用できるのかについて考察します。
現場でアプリが使えない本当の理由
従来の現場業務システムは、モバイルアプリであれWebであれ、作業者が直接画面を操作するという前提で構築されていますが、実際の現場ではこの前提が成り立たない場合が多くあります。
作業中は両手が工具や資材で塞がれており、保護手袋のせいでスマートフォンのタッチ操作がスムーズに行えません。地下・トンネル・構造物内部では、通信が不安定になったり、完全に途絶えたりすることもあります。
結局、現場の記録は後回しになってしまいます。「事務所に戻ってから整理しよう」と思った瞬間、写真を撮影した状況の記憶は薄れ、点検内容は記憶に頼ることになります。報告も自然と遅れてしまいます。
このように欠落したり不正確になったりした記録は、その後、品質や安全性を証明しなければならない段階で再び問題となります。いざ根拠が必要になった瞬間、活用できる記録が十分に残っていないからです。
デジタルトランスフォーメーションが現場で停滞する点
建設業界のデジタルトランスフォーメーションは、長い間「より良いアプリを作る問題」と見なされてきました。
しかし、現場でアプリを使いづらい理由は、機能が不足しているからではなく、手が自由にならず、通信が繋がらないからである場合が多いのです。問題がソフトウェアの完成度ではなく、入力方式や接続環境にあるのであれば、解決策もその点から出発しなければなりません。
「トンネル第3区間のショットクリート打設面の写真を撮って、点検記録を残しておいてくれ。」
今回の課題で開発する技術は、作業員が普段通りに発した文章を理解し、それに応じたアプリ機能を直接実行する方式です。
例えば、作業員が「トンネル第3区間のショートクリート打設面の写真を撮って、点検記録を残してくれ」と言うと、カメラが起動し、撮影した写真と点検内容が当該区間および工程に自動的に紐付けられます。
従来は作業者が自ら画面を開き、メニューを探して項目を選択し、内容を入力して保存する必要がありましたが、今後はこうした一連の工程を1回の音声コマンドで処理できるようになります。
適用対象は、撮影、記録、点検、報告、法令照会、マニュアル検索など、現場で繰り返し行われる40種類以上の業務であり、すべての処理はインターネット接続なしでスマートフォン内で行われます。これは、作業者が発した内容や現場データが外部サーバーに送信されないことを意味します。

インターネットがなくても動作します
ChatGPTやClaudeのような生成AIサービスは、ユーザーが入力した内容を外部サーバーに送信して処理し、その結果を再び返すという構造になっています。つまり、性能が優れていてもインターネット接続が切断されると使用できなくなりますが、現場での記録や点検が特に重要な場所は、通信が頻繁に途切れる地下、トンネル、構造物内部であるという点です。
そこで、今回の技術では、AIモデルをスマートフォン端末内に搭載し、通信状態に関係なく音声コマンドを解析し、必要な機能を実行できるように設計されています。
回答ではなく、実際の業務を実行します
従来の生成AIや音声記録アプリは、ユーザーの言葉をテキストに変換したり、リクエストに応じた回答を生成することに焦点が当てられています。その後、生成された内容をどの現場のどの項目に登録するかは、依然としてユーザーが直接処理しなければなりません。
一方、今回の技術は音声を理解するにとどまらず、ユーザーの意図に沿ったアプリ機能を直接実行します。例えば、「3階の配管の写真を撮って、点検記録を残して」と言うと、カメラが起動し、撮影した写真と点検内容が該当する作業項目に保存されます。
つまり、ユーザーの言葉が単なるテキストではなく、実際の現場業務につながる仕組みとなっています。
建設現場の表現を理解します
建設現場では、日常的な表現に加え、施工専門用語、略語、工種ごとの現場用語が多様に使用されます。これに加え、作業者のイントネーションや地域ごとの方言まで加わると、汎用音声AIが発話の意味を正確に把握することが困難になる可能性があります。
今回のプロジェクトでは、実際の建設現場で使用される韓国語の発話を中心にAIを学習させます。まず、施工専門用語や現場表現に対する認識性能を高め、その後、地域ごとのイントネーションや方言まで学習範囲を段階的に拡大する計画です。
現場データが外部に流出することはありません
音声コマンドの解析と処理の全過程が端末内で行われるため、機密性の高い現場情報が外部サーバーへ送信されることはありません。
図面や設備情報、現場の状況など、セキュリティが重要なデータを扱う公共インフラやセキュリティ現場では、このような処理方式が技術導入を決定する重要な条件となる可能性があります。別途AIサーバーを構築・運用する必要がないため、データセキュリティだけでなく、運用コストの面でもメリットがあります。
別途の専用機器は必要ありません
音声で業務を処理できる専用のウェアラブル端末もすでに商用化されています。ただし、一部の製品は韓国語の音声処理を外部サーバーに依存しており、端末1台あたりの価格が3,000ドルを超えるなど、現場全体に導入するにはコスト負担が大きいです。
今回の技術は、作業者が従来使用していたスマートフォンで直接活用できるよう開発されています。別途機器を購入する必要がなく、慣れ親しんだ業務環境を維持しながら音声ベースの機能を適用できる点が特徴です。
主な違い
生成型AIサービス:インターネット接続を基盤として動作し、主にテキスト形式の回答を提供する
海外現場管理サービス:通信が不安定だったり途切れたりすると、主要なAI機能の使用が制限される
音声記録・ディクテーションアプリ:音声をテキストに変換するが、記録の分類と保存はユーザーが直接行う
専用ウェアラブル端末:別途機器の購入が必要であり、韓国語音声処理や導入コストの面で負担が生じる
デジタルプレッソの開発技術:韓国語の音声をスマートフォン内で処理し、ユーザーの意図に沿った現場業務まで実行
今回の技術の核心は、韓国語音声認識、端末内処理、自由な音声コマンド、現場業務の実行をひとつの構造として実現することにあります。独自の調査範囲内では、これら4つの条件をすべて満たす現場特化技術の事例を確認することは困難でした。

施工管理と安全点検
この技術は、現場で毎日繰り返される記録業務に優先的に適用できます。施工管理や保守、安全点検、公共施設の運営、電力・設備管理などが代表的な活用分野です。
はしごの上や配電盤の前など、両手を使うのが難しい状況や、防護装備を着用している状況でも、音声だけで写真や点検結果を記録できます。これにより、作業の流れを妨げることなく、現場で抜け落ちがちな記録をより正確かつ体系的に残すことができます。
竣工後の施設点検と補修
施工段階だけでなく、竣工後の施設の維持管理にも活用できます。
建築物や設備は竣工後も長期間使用され、その過程で定期的な点検や補修が継続的に行われます。配管バルブの前や屋上の設備のように、手を自由に動かすことが難しい環境でも、音声コマンドだけで点検結果や措置内容を簡単に記録できます。
電力・公共・施設管理分野への拡大
本技術の構造は、特定の工種や産業に限定されません。音声で実行する業務と命令体系を分野別に構成すれば、様々な産業環境に適用可能です。
建設現場の施工用語や業務を皮切りに、電力、公共インフラ、施設管理などの関連分野へと拡大することが可能であり、将来的には言語や業務体系を現地の環境に合わせて適用することで、海外のインフラ保守現場でも活用できます。
手を自由に使えないあらゆる作業環境
この技術が解決しようとする核心的な条件は、建設業そのものよりも、作業中に両手を自由に使うことができない環境全般を対象としています。
溶接や精密作業、防護服の着用など、両手が作業に使用され、通信までも制限される環境においても、同様の技術構造を適用することが可能です。将来的には、スマートグラスやヘルメット型ウェアラブル機器でも活用できるよう、拡張性を考慮して開発を進めています。
スマートフォンに搭載される小型AI
AIをスマートフォン内で動作させるには、限られたメモリと演算性能に合わせてモデルを軽量化する必要があります。今回の課題では、スマートフォンでも動作するように設計された小型言語モデルであるSLM(Small Language Model)を活用します。
ただし、モデルのサイズを縮小するだけでは、現場ですぐに使えるわけではありません。軽量化の過程でコマンド解釈の精度が低下する可能性があり、端末に合わせて十分に最適化しなければ、応答が遅れたり、ユーザーの意図とは異なる機能を実行したりする可能性もあります。
したがって、今回の課題の核心は、単に小型のAIを実装することにはありません。制限されたスマートフォン環境においても、ユーザーの音声コマンドを迅速かつ正確に理解し、適切な現場業務につなげることが目標です。
本課題が設定した開発目標
公開された軽量モデルを実機へ適用した独自測定結果を基準に、次のような相対的な改善を目指します。
音声コマンド終了から機能実行までの時間を約70%短縮
ユーザーが意図した通りに機能が実行される精度を約30%向上
アプリが即座に処理できる構造化データの出力
スマートフォンの日常的な使用に支障をきたさないレベルでのメモリ占有の最小化
今回の研究は、新しい技術を独立した製品として開発するだけにとどまりません。デジタルプレッソの現場管理プラットフォーム「RenameDP」に音声ベースの入力方式を組み合わせ、実際の業務で活用できる機能として実装することが目標です。
RenameDPは、総合建設および電気施工の現場で発生する記録を体系的に蓄積し、必要な文書として自動的に整理するプラットフォームです。撮影した写真には位置情報と時刻情報が自動的に紐付けられ、AIが写真を分析して施工記録を作成します。 現場ごとのコミュニケーション内容は作業日報として整理され、リスク評価やTBMの記録も履歴および証拠資料として管理できます。
今回の課題で扱う40種類以上の業務も、架空のシナリオではなく、RenameDPの実際の機能と現場の業務フローに基づいて選定しました。
従来のRenameDPが現場の記録を残し管理するプラットフォームであるのに対し、今回の研究は、これに手を動かさずに記録や業務を遂行できる方法を追加するプロセスです。 作業者が手袋を脱いだり、複数の画面を操作したりすることなく、音声だけで必要な機能を実行できるようにすることで、現場とデジタルシステムの間に残る入力の障壁を低減することを目指しています。この過程で、スマートグラスなどのウェアラブル機器が写真・音声データの収集に使用されます。
開発された技術は、別途の製品として分離することなく、RenameDPの機能として適用する計画です。研究開発後も、実際の現場で継続的に活用し、性能と使いやすさを検証していく予定です。

デジタルプレッソの関係者は、「現場で記録が遅れる理由は、作業者が怠慢だからではなく、手袋を脱いで画面を何度も操作しなければ記録が残らない仕組みのためだ」とし、「インターネットが繋がらない場所でも、スマートフォン内で音声だけで撮影と点検記録を完了できるようにすることが、今回の課題の目標だ」と述べました。
手袋を脱がなければ操作できないアプリや、インターネットに接続されていなければ動作しないAIには、現場での活用において明らかな限界があります。
端末内で動作するAIは、こうした限界を解決するための一つの方法です。通信が途絶えた状況でも使用でき、音声や現場データを外部サーバーに送信しないため、セキュリティが重要な環境にも適用可能です。
ただし、限られた端末性能の中で、高速な処理速度と高い精度を同時に確保することは容易ではありません。本文で提示した数値も、現時点で達成された成果ではなく、課題終了時点までに検証すべき研究開発目標です。
デジタルプレッソの関係者は、「今回のプロジェクトで検証した技術を、独立した製品ではなく、RenameDPの機能として適用する計画だ」とし、「最終的には、作業者が記録を残すために作業を中断する必要がない現場を築いていきたい」と述べました。
本コンテンツは(株)デジタルプレッソが制作しました。
本文で提示された改善数値は、公開されている軽量AIモデルを実機へ適用し、独自に測定した結果を基準に設定した相対的な向上目標であり、プロジェクト終了時点での達成目標です。